最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)164号 判決 1968年7月16日
上告人(被告・第八五四号事件被控訴人)
株式会社 桂
右訴訟代理人弁護士 馬瀬文夫
同 中安理
被上告人(原告・第八五四号事件控訴人・第八九七号事件被控訴人) 大阪府中小企業信用保証協会
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人馬瀬文夫、同中安理の上告理由第一点および第四点の一について。
原審の確定した事実によれば、被上告人は、訴外旭金属工業株式会社(以下「訴外会社」という。)の委託に基づき、訴外会社が訴外株式会社大阪銀行から一五〇万円を借り受けるについて保証をするとともに、訴外会社との間に保証料ならびに代位弁済をした場合の求償債権額に対する約定損害金の支払を受けることを約したうえ、訴外会社の右債務を代位弁済し、訴外会社に対し、求償債権、約定損害金債権および未払保証料債権合計八七万円余を取得した。一方、訴外会社と上告人との間には昭和二六年一〇月一七日左のとおりの契約が成立した。
(1) 訴外会社は、上告人に対し六〇万円の債務を負担していることを認め、昭和三一年一〇月一六日までに右債務を完済すること。
(2) 訴外会社は、上告人に対する右債務の担保としてその所有にかかる動産類の所有権を上告人に譲渡すること。
(3) 上告人は、昭和三一年一〇月一六日までに訴外会社から前記六〇万円の債務の弁済があったときは無償で前記動産類の所有権を訴外会社に移転すること。
(4) 上告人は、昭和三一年一〇月一六日まで訴外会社に対し右動産類を賃料月額一〇〇〇円で賃貸すること。
(5) 訴外会社が前記大阪銀行に対して前記借入金を完済することができず、被上告人が代位弁済したため同人に対して求償債務を負担するに至った場合、上告人は、そのうち七五万円について、訴外会社と連帯して保証の責に任ずること。
というのであり、右事実関係のもとにおいて、原審は、訴外会社と上告人との間に成立した右の連帯保証契約は、訴外会社を要約者、上告人を諾約者、被上告人を受益者とする第三者のための契約であり、受益者たる被上告人は、その後上告人に対し右第三者としての受益の意思表示をしたものと認められるから、訴外会社が前記(4) 掲記の約定に基づく賃借物を勝手に処分したからといって、同人のかかる賃貸借上の義務についての債務不履行は、右第三者のための契約についての債務不履行とはいいがたく、これをもって右契約を解除することはできない、とするものである。
このように、訴外会社と上告人との間には同時にではあるが譲渡担保契約とこれと別の契約たる第三者たる被上告人のためにする連帯保証契約とが締結されたものであってみれば、前者の契約に伴う賃貸借契約上の債務不履行を理由に後者の契約を解除することができないことはもちろんであり、また、賃貸借契約上の債務不履行を理由とする賃貸借契約もしくは譲渡担保契約の解除が民法五三九条にいう第三者のための契約に基因する抗弁にあたるものとも解されない。従って、これらの点に関する上告人の抗弁を理由ないものとして排斥した原審の判断は結局正当である。所論のうち譲渡担保契約が未だその目的ないしは効果を完結しているものではない、とする部分は結局は原審の余論に対する非難にすぎず、その他原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。
同第二、三点について。
所論は帰するところ、第三者のためにする契約の成立を肯認した原審の認定・判断を争うものであるところ、所論の点に関する原審の認定は挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができ、右認定の事実関係に照らせば、原審が本件契約をもって所論のごとく単なる履行の引受もしくは債務の引受とは判断せず、被上告人に対して連帯保証責任を負担すべき第三者のための契約であると判断したことは正当である。本件契約を所論のごとく解する根拠はなく、論旨は理由がない。
同第四点の二について。
原審は、本件譲渡担保契約について、訴外会社が期限までに上告人に対して六〇万円の債務を弁済しないときは、訴外会社が上告人に対する目的物の返還を求める権利を失い、上告人が確定的にその所有権を取得することとして法律関係を処理する約束であった旨認定・判断するところ、右認定・判断は、挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができる。所論は、原審の右認定にそわない事実関係に立って原審の判断を非難するものであって採用できない。<以下省略>
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)
上告代理人の上告理由<省略>